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親会社と子会社の法的関係

子会社でおきた不祥事について親会社が謝罪するというニュースが報じられたり、また、子会社で働いている人からは親会社の言うことには逆らえないというような話を聞いたりもします。

親会社・子会社という言葉は日常的に使いますが、正確な定義をご存じですか?また、親会社と子会社の法律上の関係はどのようなものなのでしょうか。

親会社・子会社とは

親会社・子会社という言葉は会社法を始めとするいくつかの法令に出て来ます。法令の目的に応じてその定義はそれぞれなのですが、今回は基本となる会社法での定義を確認してみます。「経営を支配しているか」ということがポイントなのですが、具体的には以下の場合が親会社・子会社の関係にあるとされます。
① 議決権の50%超を保有する場合
② 議決権の40%超を保有する場合であって
A:自己(及びその子会社)以外の者であって緊密な関係があることにより、自己と同一の内容の議決権行使をする者の保有する議決権と合わせれば50%超となる場合
B:子会社となる会社の取締役の過半数を、自己の役職員で占めている場合
C:子会社の債務の50%超を融資している場合
D:子会社となる会社の財務や事業の方針の決定を支配している事実が認められる場合
※上記B~Dの条件を満たす場合には、他人の計算で保有する分を含めた議決権が50%超となる場合も親会社・子会社となります。

会社法上の親会社の権限と義務

では、会社法では親会社には子会社に対するどのような権限が認められているのでしょうか。

会社法上、親会社の監査役に子会社調査権が認められていますが、その他は親会社に特別の権限が認められている訳ではありません。(当然のことながら、親会社には「株主」としての各種権限があります。)

他方で会社法では一定の場合に内部統制システムの構築を義務づけていますが、その一部として、親会社・子会社を含めた企業集団における業務の適正を確保するための体制を整える必要があります。

このように、一方で子会社を含めた企業グループの業務の適正を確保するための体制を求めつつ、そのための具体的なツールがないというのが会社法の現状ですので、議決権の50%超を有するなどの状況から生じる支配力を行使して子会社の管理をするということになります。有り体に言えば、50%超の議決権があれば社長を含めた取締役等役員の選任権をもち、株主総会の決議をコントロールできる訳ですから、このような人事権等を背景に、会社法の規定に頼ることなく子会社を管理・支配するということになります。

親会社の子会社に対する責任

このように親会社が子会社を管理・支配している状況があると、次に問題になるのが、子会社の行為について親会社が何処まで責任を負うのかという点です。

①親会社は子会社の債務について保証債務を負うのか?

親会社が子会社の債務について契約上明確に保証債務を負っている場合は別として、子会社・親会社という関係だけで親会社が子会社の債務について保証債務を負うことはあるのでしょうか?

法律上の結論としてはNOということになります。会社法上は先に見たとおり親会社は特別の権限は殆ど与えられておらず、また義務も、少なくとも保証債務に関する特別の規定はないからです。そうすると、株主責任は有限責任ですから、親会社が既に出資した以上に責任を負うことは法律上はありません。

ただ、現実問題として、子会社が倒産すると親会社にとっては信用を失う事にもなるため、このような信用の毀損を防ぐために親会社が子会社を救済する場合もあります。ただ、親会社経営陣の株主に対する説明責任もありますから、常にこのような措置がとられる訳ではないので余り期待はしない方が良いと思われます。

②親会社が子会社の業務内容について深く関与していた場合はどうか?

保証債務という意味では、上記の様に難しいのですが、親会社取締役の対第三者責任や不法行為責任(一種の)使用者責任が問題になることが考えられます。

これらの責任は親会社の役職員が子会社の業務執行について相当程度関与しており、また、その業務執行の内容が違法であるような場合に問題となりますが、正常な取引において子会社が債務不履行をおこしたというような場合には責任追及は難しいと考えられます。

③法人格否認の法理

以上の他に、法人格否認の法理が適用される場合が考えられます。

これまで見たように、親会社は子会社の債務について責任を負わないのが原則ですが、これはそもそも親会社と子会社とが独立した別法人であることが前提となっています。しかし、子会社が事実上、親会社と一体となっており子会社の法人としての体裁が形骸化しているような場合には、別法人である事を前提にすることが不当であるとして、親会社と子会社を一体のものとして扱うという判断を裁判所が行う場合があります。
これが「法人格否認の法理」と呼ばれるものですが、単に親会社が子会社を(完全に)支配しているというだけでは足りず、子会社の株主総会や取締役会などの機関が開催されないなど機能していなかったり、業務が混同していて子会社の業務なのか親会社の業務なのか相手先から判別できない等の事情があったり、両者の財産が混同するなど子会社の法人格が形骸化していることが必要とされておりますので、子会社が一定の規模で業務を行っている場合にはなかなか適用されることはないと考えられます。

親会社と子会社の関係の注意点

取引先の立場から見た場合、以上で見たとおり、子会社の責任を親会社に対して追及することはかなりハードルが高いと言えます。コトが起きてしまった後であれば、あらゆる手段を検討すべきですが、コトが起きる前(これから取引関係に入る場合)であれば親会社に責任追及は出来ないのが原則であるということを前提に考える必要があり、親会社の信用を当てにして取引に入るということであれば、最初から親会社の保証を契約で求めるべきです。

他方で、親会社の立場から見た場合、子会社の行為について責任を負う範囲は限定されているとはいえ、レピュテーションの問題もありますし、子会社で損失が生じれば、それはそのまま連結会計での数字に響くわけですから、子会社の管理は怠らないようにする必要があります。また、子会社の不祥事が、海外を含めた規制当局からの処分(カルテルの例などでは子会社の行為について、親会社役職員の行為責任を認めたケースがあり、上記の様な取引先との関係とは別の基準で考える必要があります。)の対象となったり、親会社からの代表訴訟の原因となったりする事を考えれば、その責任は重大と考えられます。