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下請法で親事業者が禁止されること

下請法が適用される場合、親事業者はどのような行為が禁止されるのでしょうか。
下請法第4条で11の項目が禁止事項として挙げられています。

①受領拒否の禁止

親事業者が下請事業者に対して委託した給付の目的物を下請事業者が納入しようとしたときに、下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、この受領を拒否することは禁止されています。

典型的には、親事業者が下請事業者に発注した後に、親事業者側(あるいはその顧客)の事情が変わって発注したものがいらなくなって受領を拒否しようとすることが挙げられます。単純に受領を拒否する場合に限らず、検査基準に従わずに不合格としたり、検査基準を勝手に変更して不合格として受領を拒否する場合も含まれます。

逆に、下請事業者の責に帰すべき事由がある場合には禁止される受領拒否にはあたりません。
注文と異なるものや不具合(瑕疵)があるものが納入された場合や、期限通りに納入されなければ親事業者にとって意味が無く不要になる場合で納期が守られなかった場合などです。

②下請代金の支払い遅延の禁止

親事業者は、下請事業者から物品などを受領してから60日以内で定めた支払期日よりも遅れて下請代金を支払うことはできません。支払期日を定める義務(2条の2)や遅延利息の支払い義務(4条の2)の裏返しの禁止事項となります。

注意しなければならないのは、物品などの受領日から60日以内という期限がスタートするため、検査・検収が遅れたからといって期限がその分、遅くなる訳ではありません。
また、月末締め翌月払いであれば問題ないですが、月末締め翌々月10日払い等と支払い条件を設定すると遅延禁止に違反する場合が出てくるので注意が必要です。(1月1日に納入して、3月10日に支払われる場合など)締め日ではなく個々の納入日から起算されるためです。

③下請代金の減額の禁止

親事業者は、下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、発注時に決定した下請代金を減額してはいけません。

下請事業者の責に帰すべき事由がある場合には下請代金の減額も許されますので、たとえば納入された物に瑕疵があったり、納品の遅れがあったりして正当に受領拒否・返品などしてその分の下請代金を減額することや、瑕疵を親事業者側で手直ししてその費用を減額するような場合には下請代金の減額にはあたりません。

契約に際して割戻金の合意をすることがありますが、ボリュームディスカウントなど一定の数量以上の発注の見返りに減額をすることが書面上約束されており、その減額の幅が一定数量以上の発注によって下請事業者にとって損とならない場合(減額しても、取引量の増加によって利益が増加する場合)など限られた場合にしか認められていないので注意が必要です。

④返品の禁止

返品とは下請事業者の責に帰すべき事由がないのに下請事業者の給付を受領した後にその給付された物を引き取らせることをいいます。

下請事業者の責に帰すべき事由がある場合には許されるので、注文と異なる物品が納入された場合や、汚れていたり壊れていて契約の目的を達しない場合には返品することも許されます。
ただ、この場合にも返品できる期間が決まっているので注意が必要です。

まず目的物の不具合(瑕疵)がすぐに見つかるようなものである場合には、発見次第速やかに返品する必要があり、その後に返品することは許されません。

不具合(瑕疵)がすぐに見つからないようなものであっても、受領後6ヶ月以内の返品であれば認められますが、それ以降は、一般消費者に対して6ヶ月以上の品質保証を定めている場合(この場合も1年間が限度)を除いて返品は許されなくなります。

⑤買いたたきの禁止

買いたたきとは、親事業者が発注に際して下請代金の額を決定するときに、発注した内容と同種又は類似の内容に対して通常支払われる対価と比べて著しく低い額を不当に定めることをいいます。

どのような場合に「買いたたき」とされるかは、
① 代金の決定に際して下請事業者と十分な協議を行ったか
② 差別的であるかどうかなど対価の決定内容
③ 通常の対価と決定された対価とにどれくらいの差があるか
④ 給付に必要な原材料などの価格状況
を総合的に勘案して判断されます。

たとえば、親事業者が一方的に値段を決める、いわゆる「指値」で発注した場合、下請事業者と十分な協議を行ったとはいえず、「買いたたき」と評価されるリスクが高くなります。
また、大量の発注をすることを前提に価格を低くすることを下請事業者と協議したのに、実際には少量しか発注せずに低い価格を単価として利用する場合にも「買いたたき」と評価されるリスクが高くなります。

⑥購入・利用強制の禁止

購入・利用強制とは、親事業者が正当な理由がないのに親事業者の指定する商品・原材料などを強制的に購入させたり、サービスなどを強制的に下請事業者に利用させて対価を支払わせたりすることをいいます。

「強制」とありますが、下請事業者が承諾している場合であっても、親事業者と下請事業者の間の力関係がありますから、実質的に「強制」していないか注意する必要があります。

典型的には、親事業者の担当者が自社(又は関係先)の売上げを上げるために、下請事業者にとって不必要な商品やサービスを購入させることが挙げられます。

正当な理由があれば別ですから、受発注に必要なシステムを下請事業者に有償で導入して貰うことは基本的には問題ありませんが、対価が高すぎると「購入・利用禁止」に該当することが考えられます。

⑦報復措置の禁止

報復措置の禁止とは、文字通り、下請事業者が親事業者の下請法違反行為を公正取引委員会や中小企業庁などに通報したことを理由に、取引数量を減らしたり取引停止とするなど不利益な取り扱いをすることをいいます。

⑧有償支給原材料等の対価の早期決済の禁止

有償支給原材料等の対価の早期決済の禁止とは、親事業者が下請事業者に対して発注する際に、その対象商品の製造に必要な部品や原材料等を下請事業者に有償で支給している場合に、正当な理由がないのに、この支給品を利用して製造した物品に対する下請代金の支払期日よりも先に支給品の代金を支払わせたり、前に納品された物品に対する下請代金と相殺したりすることをいいます。

早期決済が認められる「正当な理由」とは、下請事業者が支給された原材料等を損失などしてしまったため、目的となる物品がその原材料等で作れなくなってしまった場合や、原材料等を支給されたがこれを利用して製造された物品が不良品であった場合、支給された原材料等を他へ転売した場合などに限られますので注意が必要です。

⑨割引困難な手形の交付の禁止

下請事業者に対して下請代金を手形で支払う場合、支払期日までに一般の金融機関で割り引くことが困難な手形を交付すると下請法違反となります。
具体的には商慣習上妥当と認められる手形期間を超える長期の手形を指し、業種にもよりますが120日を超えるようですと割り引くことが困難と評価されることになります。

⑩不当な経済上の利益の提供要請の禁止

不当な経済上の利益の提供要請の禁止とは、親事業者が自己のために下請事業者に協賛金などの金銭や下請事業者従業員の派遣などの役務その他の経済上の利益を不当に提供させることをいいます。

たとえば、親事業者である小売店が、下請事業者である納入先に対して、店の単なる手伝いをさせるために従業員の無償での派遣を要請するような場合が挙げられます。

他方で、下請事業者の納入商品の販売を担当させるような場合で下請事業者の利益になることを明示する場合には、不当な経済上の利益提供にはあたらないため許されることになります。

⑪不当な給付内容の変更・やり直しの禁止

不当な給付内容の変更ややり直しとは、下請事業者に責任がないのに、発注の取り消しや給付内容の変更をおこない、又は、受領後にやり直しをさせることによって下請事業者の利益を不当に害することをいいます。

給付内容の変更ややり直しをさせるのに必要な費用を親事業者が負担するのであれば問題ありませんが、一部費用又はすべてが下請事業者の負担となっているのであれば、禁止行為に該当することになります。

下請事業者側の事情で給付内容を変更する場合や、対象物に不具合がある場合で受領前に注文内容に沿って変更させる場合、受領後にいったん返してやり直させる場合には、正当な理由があるため、不当な変更又はやり直しには該当しません。

返品の場合と同様に、正当な理由がある場合であっても、やり直しをさせることができる期限が決まっており、通常の検査で直ちに発見できる瑕疵の場合には、発見次第速やかにやり直しをさせる必要がありますし、通常の検査で直ちに発見できない場合であっても物品の受領後1年以内にやり直しをさせる必要があります。

親事業者がユーザーなどに対して1年以上の瑕疵担保期間を保証している場合には、それに応じた瑕疵担保期間を親事業者と下請事業者の間で合意している場合に限り1年以上であってもやり直しをさせることができますので、親事業者としては、ユーザー等との瑕疵担保期間に応じた期間を下請事業者との間でも定めておくことが重要です。