下請法と契約解除・損害賠償請求
契約関係上、弱い立場になりがちな下請事業者を救済するための法律として下請法があります。
下請法は、契約類型(製造委託取引や役務提供委託取引)や資本要件等の形式的な条件を元に適用されて、親事業者の行為について下請事業者を守るための義務や禁止行為を定めています。
このため、親事業者側が下請事業者に対して不利益を与える場合に、下請法違反では真っ先に挙げられることの多い法律なのですが、必ずしもあらゆる場合にも適用される訳ではありません。
下請法と契約解除
例えば、下請事業者に債務不履行などがないにも関わらず、親事業者が一方的な事情により、取引を打ち切る場合があります。理由としては、他の業者の方が契約条件がよいとか、そもそもビジネス自体を打ち切る場合など様々考えられますが、下請事業者からすれば、下請取引には長期の取引も多いですから、売上貢献への期待もあり、場合によっては死活問題となることもあります。
このような場合に、下請法違反とならないのかというご相談を受けるのですが、下請法では親事業者に禁止される行為が類型化されており、その中には下請取引の解除については定められていないため、個別の取引について既に発注している分について取引終了を理由に受取を拒否するのであれば、受領拒否に該当しますが、そうでない場合、例えば、一定の予告期間を設けて既発注分は受領し代金を支払う一方で、新規の発注をしないというような場合には、下請法では原則として制限されません。(下請法違反を公正取引委員会へ通告した事に対する報復として取引停止する事については禁止されています。)
従って、このような場合には下請法ではなく、契約解釈としてそもそも取引の終了が可能であるかや、継続的契約の保護の法理からそのような取引打切について正当かどうかを検討する事になります。
下請法と損害賠償請求
また、親事業者から損害賠償請求を受けた場合も、下請法が適用されないのかというご相談を受ける場合があります。
まず、下請法は、取引の目的となった製品などについて、下請事業者の責めによる瑕疵がある場合の適用が制限されています。即ち、下請法では、返品ややり直しなどを制限していますが、これはあくまでも契約通りの納品がなされた場合の問題であって、製品に問題があれば返品ややり直しについても許されますし、当然のことながら損害賠償請求をする事も可能です。(商法上又は契約書で定めた瑕疵担保責任の期間制限などは受けます。)
従って、下請事業者の債務不履行により取引の目的となった製品に問題があれば、それについて親事業者が損害賠償請求することを下請法が妨げていません。
ただ、このような場合に往々にして問題になるのが、いくら賠償すべきかという点です。損害には直接損害や間接損害などありますが、いずれにせよ法令上認められるのは、瑕疵と相当因果関係が認められる範囲に限られますから、親事業者が過大な損害賠償請求をしてくるのであれば、不当な経済上の利益の請求として下請法違反となりますし、下請事業者と損害賠償額について合意が出来ていないのに、親事業者が一方的に下請代金から相殺するのであれば、過剰な請求と評価される部分については、同じく下請法違反となる下請代金の減額となるため注意が必要です。
このため、下請事業者の責任による瑕疵が製品にある場合に、親事業者から下請事業者に対する損害賠償請求自体は下請法上はOKですが、その損害賠償額については十分に協議をし、合理的な金額にしなければ下請法違反の問題が生じることになります。
また、いつまで損害賠償請求が可能かという問題もあります。例えば、契約書上で瑕疵担保責任として5年などの保証期間を定めて損害賠償請求を認めている場合に、下請法上は問題にならないのでしょうか。
この点については、下請法上、返品(最長1年)や、やり直し(親事業者の顧客との保証期間が上限)について期間制限を設けていることから、返品ややり直しについて期間制限があるのであれば、その代替となる損害賠償請求についても同じ制限を受けるのではとの考え方もありますが、下請法の運用についてはその文言を重視して、良くも悪くも形式的に適用範囲を定めているところがあり、損害賠償請求できる期間については下請法上の制限はないと考えています。(もちろん、その請求内容が過大であれば、別の下請法上の問題となるのは、上記のとおりです。)
このように、下請法は下請取引のあらゆる問題に対応出来る訳ではなく、また、下請法の適用がなくとも、他の法理が解決指針となる場合もありますので、下請法以外のルールにもご注意下さい。