保守用部品と下請法
ユーザーに販売された自動車や家電などについて故障があると、メーカーに持ち込まれ、修理のための部品が必要になるということになります。有償修理の期間を含めると7年とか、場合によっては10年を超えてもメーカーが対応しようとすることがあります。
メーカーが保守用部品を在庫として持っていれば良いのですが、在庫を持たずに、部品メーカーに修理の必要が発生した都度発注しようとすると様々な法的問題が生じ得ます。
今回はそのような問題について検討したいと思います。
部品メーカーに受注義務はあるのか?
法令上の瑕疵担保責任を負うような場合を除き、取引基本契約などで定めがなければ、一般論としては部品メーカーに受注義務はないと考えられます。従って、メーカーと部品メーカーの間の契約書次第ということになろうかと思います。
但し、契約書の解釈では部品供給義務が読み取れなくとも、部品メーカーとしては、取引先との関係上、断れないという状況は往々にして生じるのではないかと思います。
保守部品を受注する場合の価格は?
この場合、メーカーが通常生産時の単価で発注しようとする場合があります。対象となる部品が現行品として生産が続いており、その一部として保守用の部品を発注するなら良いのかもしれませんが、通常の生産が終了しており、保守用の部品だけを発注するような場合には、話が違ってきます。
すなわち、ある程度の数量を生産する場合と、保守用の部品を少量生産する場合とでは、1個あたりの生産コストが異なる場合が多いからです。
このような差を無視して、メーカーが部品メーカーに対して、大量生産時の単価を押しつけようとする場合には、下請法の「買いたたき」に該当するおそれがあります。
保守部品の納入と代金支払時期について
では、価格を下げるために、ある程度まとまった数の発注をして保守部品を製造させたにもかかわらず、その保管を部品メーカーにさせて、必要になる都度、その分の部品を納入させて、納入された分だけの代金を支払う場合や、一旦、メーカーの倉庫に納品させてメーカーが使った分の代金だけを支払うという方法はどうでしょうか。
前者については、「受取拒否」や「不当な経済上の利益の提供要請」に該当するおそれがあり、後者については「支払遅延」に該当するため、やはり下請法違反が問題となります。
保守部品を製造するための金型の保管
保守部品の製造に必要な金型の保管についても注意が必要です。
金型についてはメーカーが所有権を有し、部品メーカーに貸与する場合と、部品メーカーの所有になっている場合の双方が考えられますが、いずれにおいても、量産時期が過ぎれば部品メーカーとして金型の保管や保守自体が負担となってきます。
そのため無償で量産時期が過ぎた後も金型を保管させているような場合には、「不当な経済上の利益の提供要請」に該当し、下請法違反が問題となり得ます。
まとめ
以上のことから、メーカーとしては、部品メーカーとの関係では、保守部品は製造コストが上がることを前提に、量産時とは異なる単価を受け入れる必要がありますし、その決済条件についても支払遅延等に該当しないよう留意する必要があります。また、金型など保守部品の製造に必要な装置などがある場合には、その保管や保守の費用について部品メーカーに一方的に負担させる事のないように注意しなければなりません。
ユーザーにとっては購入した自動車が家電が修理によって長く使えるのは有難いことなのですが、メーカーとしては、保守部品の供給維持に必要なコストを安易に部品メーカーに押しつけることなく、修理費用に反映させてユーザーに負担を求めたり、そもそも経済的な合理性がないのであれば、修理対応を打ち切るという判断も必要かと考えられます。