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株主総会と動議

株主総会シーズンですので、またまた株主総会関連です。不祥事や経営に問題がある会社の株主総会は荒れることが多いのですが、株主からヤジとともに色々な要求がなされることがあります。「議長辞めろー」とか「質疑を打ち切るなー」とか、「取締役は全員解任だー」とかいうあれです。勿論、株主総会のシナリオ(ほぼ100%の株式会社でこのように進行させるというシナリオを用意しています。)にないものですので、ある意味、議長である社長や株主総会事務局の対応力が試される部分で、株主席から見ている分には興味深いやり取りになります。

このような要求は、自らの提案に他の株主の賛同を求めているわけで、広い意味での「動議」であると整理することが出来ます。会社法上で分類される「動議」には、株主総会の議事運営に関する動議と株主総会の議案に対する動議の二つがあり、その他「動議」に見えてそうでないもの、つまり議場に諮る必要がないもの(動議もどき)があります。

例えば、「議長辞めろ」というのは、株主総会の議長の交代に関する提案ですから、議事運営に関する動議ということになりますし、一株あたり50円の剰余金を議題としているう場合に、100円にすべきだという提案は議案に関する動議ということになります。

これに対し、先日の報道で日産の株主総会で株主から「役員を辞めて貰いたい」との発言があり、議長から動議として受け付けられず御意見として承るという対応がなされましたが、株主からのこのような発言は「動議もどき」ですので、議長のこの対応は正解ということになります。

株主総会には取締役を解任する権限があるのでは?とお考えになる方もいるかも知れません。株主総会の権限に関する理解としては正しいのですが、株主総会のルールとして、事前に株主総会の決議の対象となる議案を株主に招集通知の中で通知する必要があるのですが、取締役設置会社では、株主総会の当日に動議として、この通知された議案以外の事項を決議の対象としてはならないというものがあります。これは、株主は事前に通知された議題を見て株主総会に出席するか否かを決める訳で、当日に議題を追加できる事になると、欠席した株主が知らぬ間に株主総会決議がなされてしまうことになるからです。

従って、株主総会の当日に「取締役を解任することを提案したい」と言っても、動議としては取り上げられず、御意見として承るで終わりになることになります。もし、株主として取締役の解任を正式に議題として株主総会で取り上げて欲しいのであれば、株主提案権(会社法303条)を行使して事前に取締役解任を株主総会の議題に加えるように伝える必要があるのです。

ちなみに「質疑を打ち切るなー」というのも一見、議事進行に関する動議に見えて「動議もどき」です。これは質疑をいつまで続けるかは議長の議事運営権に含まれるため、議長の判断で質疑終了を判断できると解されているからです。ただ、議長として議事を打ち切るかどうかについて議場に諮らなくても良いとしても、質問希望者がまだ多数いて、このような意見が出ている中で、質疑終了を打ち切ると、審議を十分に尽くさなかったという議長の議事運営に関する瑕疵が問題となりますので、議場の状況はよく見た上で判断する必要はあると思います。

このように、動議になるものと動議もどきとの区別は、結構微妙ですので、事前の想定やシミュレーション、現場での判断力が試される場面と言えるでしょう。