株主総会の招集手続
企業法務関係者の耳目を集めている日産・ルノーの問題ですが、ルノー側が日産に対して株主総会の開催を求めているにもかかわらず、日産側でこれに難色を示して株主総会を開催しないという状況が続いているという報道がなされています。
ルノーは日産に対して40%以上の株式を保有する大株主です。株主は言ってみれば会社の”オーナー”という立場にあるわけですが、オーナーの希望にもかかわらず株主総会を開催しないということが可能なのでしょうか。
今回は、株主総会の開催手続について考えてみたいと思います。
まず、株主総会には定時株主総会と臨時株主総会とがありますが、定時株主総会が通常、決算期から3ヶ月後頃に開催されるというように時期が決まっているのに対して、臨時株主総会は文字通り臨時に開催されるため時期が定まらないという違いがあるだけで、その開催手続に大きな違いはありません。
現在、株式会社には前からある取締役会を設置する会社の他に、取締役会を持たない株式会社も選択できるようになっていますが、今回は、取締役会があることを前提に考えます。また、定款によってルールをある程度変更することもできますが、会社法に則った一般的なルールを前提に考えます。具体的な会社におけるルールについてはそれぞれの会社の定款を参照してください。
株主総会招集の原則的な手続き
株主総会は、取締役会決議で株主総会の日時や場所、目的となる事項などについて決定し、この決議に基づいて代表取締役が招集通知を発する方法により招集されます。
つまり、会社経営陣(取締役会と代表取締役)が招集についてイニシアチブを持っていることになります。
この原則的なルールに従えば、株主であるルノーが日産に対して株主総会の開催を求めたとしても、それに応じるかどうかの判断権を日産経営陣が持つことになります。
裁判所の許可に基づく招集
以上の原則的なルールの例外として、会社法は、3%以上の議決権を6ヶ月以上(株式譲渡制限のある会社においては期間による要件は排除されています。)有する株主は、会社に対して株主総会の招集をその目的と理由を示して会社(経営陣)に対して請求することができ、一定期間以内に会社経営陣がこの請求に応じて株主総会を招集しなければ、裁判所の許可を得て自身が株主総会を招集することができるとしています。
このような方法によれば、ルノーは日産経営陣が株主総会の開催を拒んでいても、裁判所に許可を求めて自ら株主総会を招集することができます。(実際にこのような請求権を行使するかどうかは、自分が求める株主総会決議が最終的に得られるか。つまり、経営陣と敵対する形で株主総会を開催するとして、委任状争奪などを経て自分の主張を通せるかなどを見通しつつ判断されるものと思われます。)
株主全員の同意がある場合
では、裁判所の許可というような大仰な手続きをしなければ、株主側の意向だけで株主総会を開催できないのでしょうか。実は、株主総会に関する手続きは、株主全員の同意があれば招集手続きを省略できることになっています。これは、株式会社のオーナー全員が招集手続を省略してよしとしている以上、あえて正式な招集手続を要求する必要性がないからです。
このような方法は、100%の資本関係がある親子会社や、オーナー企業など、株主が一人かごく少数で株主間の連絡がとれやすい会社で利用されていると思います。
特に、この規定のありがたみがあるのは、取締役が(取締役非設置会社などで)一人しかいない場合に、その唯一の取締役が亡くなってしまったり、音信不通になってしまった場合です。取締役による招集は期待できませんし、裁判所の許可を得るのは煩雑ですが、株主全員の同意が得られるのであれば、簡単に株主総会を開催することができるからです。株主全員であつまって、次の取締役を選任すれば、直ぐに通常の状態に戻すことができます。
但し、小規模な会社であっても、株主が多数いて、ある程度分散してしまっているような会社では現実的には使えないですし、日産のような上場会社では事実上不可能ですので、日産・ルノーの問題で使用されることはないでしょう。