転売行為に対する法規制
2020年東京オリンピックの観戦チケットの当落が話題になっていますが、これに合わせるようにチケットの転売行為に対する規制としてチケット不正転売禁止法が2019年6月14日から施行されています。
この法令は、①一定の条件に当てはまるチケット(特定興行入場券)を②業として③チケットの定価を超える値段で譲渡する行為やこのような行為を目的とした仕入れ行為を禁止しており、違反者に対して1年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金(又はこれらの両方)という刑罰を定めています。
まず、特定興行入場券とは、①イベント運営側でチケットの転売を予め禁止して、その旨をチケットにも明示していること、②チケットで特定の日時、場所、座席などが指定されているものであること、かつ、③チケット購入者を特定するための氏名や連絡先などの情報をチケットに表示したものであることが必要です。
また、チケットの定価を超える転売行為が規制の対象となっているため、定価と同額以下であれば、法令上は転売可能です。
恐らく実務で一番問題になるのは②の「業として」の解釈だろうと思われます。この「業として」というフレーズは様々な法律で出てくる用語であり、私的な関係であれば自由に出来る行為であっても、社会性を帯びてくるのであれば規制の対象とする必要が出てくるという考え方の元に、両者を区別するための基準となります。例えば、私が知人にお金を貸すのに何の法規制もありませんが、「業として」行うのであれば貸金業の登録が必要となります。
この「業として」という用語は色々な法律で出て来ますが、直接の定義を法令では行っておらず、一般的な解釈として「対公衆性」のある行為で「反復継続性」をもつ行為と理解されています。
必ずしも事業体、つまり個人事業主や事業会社を主体として行っていることとは関連しないため、会社名義で定価以上の譲渡をしても該当しない場合がありますし(例えば、会社名義で福利厚生などの目的で購入したチケットについて、大事な取引先から定価以上で良いので譲ってくれて頼まれて譲るケース)、逆に、純粋な個人名義での譲渡でも、その実態に応じて「業として」に該当すると判断される場合もあります。実際にも、貸金業法における闇金などの違法行為の多くで「友達に貸しただけだ」という言い訳がされますが、通用しないことが殆どです。
以上の様に、一定のチケットの転売行為については法規制がかかりましたが、イベント運営者側で転売禁止ルールの明示や、本人確認の仕組みなどを導入する必要があり、実効性を持たせるためには運営者側の努力も必要になりそうです。(=運営者側がめんどくさがる場合には、法規制が及ばないことになります。)
また、チケット以外の物品の販売については、転売行為は禁止されないままです。これは、チケットなどの興行の場合には、会場に入場して興行を鑑賞できるサービスを受ける権利(債権)としての性質があるため、運営者側から「最初に売った人しか入場させない(=転売禁止)」というルール設定が契約上可能である一方、物品の売買については完全な権利である所有権(物権)が移転する以上、対象物をどうしようが買主の自由という考え方があるからです。一般に問題とされているレア物の転売行為とは適用場面が違いますが、商品供給元が小売店に対して販売価格を制限する(定価どおりで売ることを指示すること)は、再販価格維持行為として独禁法上規制されている事との関係もあり、物品の転売行為への法規制の実現は難しいのではないかと個人的には考えています。従って、物品の転売行為については賛否両論ありますが法的には合法であると考えられます。
物品の転売行為の問題解決のためには、メーカーなどの商品供給元にもう少し売り方(需要に対する供給量を十分に確保するとか、受注生産方式にするとか、レアリティを確保したいなら会員制度などで購入資格を縛るとか…)を考えて貰うしかないのではないでしょうか。