スポンサーリンク

成績不良社員の解雇

クライアントの会社から勤務成績や態度が悪い従業員を辞めさせたいんだけど…という相談を受けることがありますが、多くの場合において、勤務成績や勤務態度の内容について客観的な記録を残すようにしましょうというアドバイスをすることがあります。今日は、このテーマについて考えたいと思います。

普通解雇の一般的な考え方

まず、会社と従業員との間の関係は雇用契約という形で成立しており、民法上は期間の定めのない雇用契約であれば、労使共にいつでも解約の申し入れが出来るとしています(報酬の定め方によって予告期間に違いがあります。)(民法627条)。

しかし、従業員にとっては雇用契約の維持は生活がかかっている事が多いため、会社からの解雇を容易に認めるのは酷であるという考え方から、労働契約法という特別法によって、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」(16条)と会社からの解約申入権(解雇権)を制限し、民法の原則を修正しています。

従って、会社が従業員を普通解雇しようとする場合、客観的に合理的な理由と、社会通念上相当である事が必要とされることになります。

解雇における客観的に合理的な理由と、社会通念上の相当性とは

まず、会社の就業規則で勤務成績や勤務態度の不良が解雇事由に挙げられている事(最後に挙げられている一般条項でカバーすることもあります。)が前提となりますが、その勤務成績や勤務態度の不良が客観的に示せるのかという点がポイントとなります。

この点で、普段から勤務成績や態度の不良について、会社から改善を促したり、指導をしたことを記録に残して、どの程度の勤務成績や態度が不良であったのかを客観的に証明できるようにする必要があります。

また、会社は従業員への指導・教育や配置転換を行う人事権を有している反面、これらの適切な行使によって従業員を上手く使って雇用を維持するべきだという考え方が裁判所等にはあります。その意味で、勤務成績や勤務態度が不良の従業員に対して、その改善に向けた教育や指導を施し、場合によっては配置転換や業務内容の変更によって当該従業員でも成果を上げられる業務をあてがってみるということも必要とされます。

これらの努力によっても、当該従業員の成績が上がらなかったり、そもそも指導・教育に従わないなど勤務態度に問題がある場合には、解雇に踏み切ることも社会的相当性があると認められる可能性が高くなります。

会社側の努力の見える化

これらの指導・教育などの実施やその記録化は、万が一裁判になったときに有力な証拠資料になるだけでなく、対象になっている従業員に対しても自覚を促す効果が見込めるため、解雇に至った場合の紛争に至るリスクを軽減する事にも繋がると考えられます。

成績や勤務態度の悪い従業員に対して、口頭の注意・指導だけでなく、書面での注意・指導や、更に懲戒処分としての戒告などをする事については、管理職の方が負担に感じたり、何もそこまでやらなくとも…と考える場合があるようなのですが、部下に対する日々の不満がつもりにつもって、ある日突然に「クビだ!」となったときに、証拠となる記録がなければ、裁判で戦えないですし、問題の部下にとっても、「いきなりクビだと言われた」「普段から注意はされていたが、そこまで深刻に受け止めてなかった」と反論される事にもなりかねません。

なかなか相談を頂いた時点で、証拠が揃っているほどの明確なケースは少ないため、冒頭のアドバイスのように、ある程度腰を落ち着けて進める必要があるのです。

成績や勤務態度の不良を理由とする解雇は、理由があり適切な手順を踏めば可能

世間では、成績や勤務態度の不良を理由とする解雇はまず無理という理解がされている事があります。確かに、何でもかんでも解雇出来るわけではありませんが、最終的に無効とされるケースは、上記の様な手順を踏んでおらず、成績や勤務態度の不良に関する証拠が不十分なケースや、会社が主張する成績や勤務態度の不良が、裁判所の考える不良の水準にまでいっていないケースが殆どであると考えます。裁判所としては、平均から少し劣っている程度では、成績不良を理由とする解雇は認められないというスタンスを基本的にとっているため、この点は注意が必要です。

但し、中途採用で特定のプロジェクトや職務を担当する事を目的としていて、必要とされる能力の水準が明確になっている場合には、解雇が認められやすくなると考えられます。しかしながら、この場合でも、改善を促したしたりするプロセスとその記録は必要となります。
この点は、新卒採用などで、会社が一から教育していくことを期待されるような場合とは異なります。

以上から、中途採用であれば職務の目的を明確にし、必要とされるレベルを対象となる従業員に伝え、雇用契約書などの内容として残す必要がありますし、また、新卒採用の場合にも、昇進や昇給が成績や勤務態度に見合ったものになるよう、成績や能力を普段から適切に評価する努力が会社にも必要です。このあたりを面倒がって、あいまいにしてしまうと、給料に見合った成果を上げていないが、なかなかクビに出来ないという不満だけが残る事になるからです。