取引先への協力金要請の法的リスク
取引先への協力要請は可能か?
先日、通販サイトのamazonが、取引先に対して販売金額に対して1~5%の「協力金」支払を求めているというニュースが話題になりました。
今回は、このような協力要請の法的リスクについて考えてみたいと思います。
報道によれば物流費の上昇などが背景にあるようですが、amazonに限らず、世間一般の取引においても、取引相手に対して様々な「協力」を求めることはよく見受けられることです。
例えば、今回の様に取引に関連するコストの分担として金銭の支払いを求めたり、代金から減額または増額したり、あるいは、店舗の販売員や整理など人手を出すように求めたりと様々な形態の「協力」があります。
このような「協力」の要請は、当事者間の話合いによって行われるのであり、受けるのも・拒否するのも当事者の自由ですから、「契約自由の原則」によって、原則として自由に行う事ができるというのが基本的な考え方になります。
優越的地位の濫用
ただ、「契約自由の原則」があり、契約の当事者は自由な判断が出来るはずだからと言っても、今回のamazonのケースで問題になっているように、現実の取引では当事者間に少なからず力関係の差があり、場合によっては、当事者の自由な契約交渉に任せていては社会正義に反するのではという場合も考えられます。
このような場合に「契約自由」へ法律が介入する場合として、独禁法が定める「優越的地位の濫用」というルールがあります。
具体的には、独禁法2条9項5号で、契約の一方当事者が、自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商習慣に照らして、不当に以下のような行為をさせることが、独禁法で禁止される「不公正な取引方法」であるとされています。
①継続的取引の相手方に関係のない商品やサービスを購入させること
②継続的契約の相手方に、自己のために金銭やサービスその他の利益を提供させること
③取引相手からの納品を受領拒否したり、代金支払の遅延や減額、その他の取引条件の不利益変更をすること
この場合、まずどのような場合に「優越的な地位」にあるのかが問題となりますが、契約の一方当事者が、相手方に著しく不利益な要請を行った場合に、相手方がこれを断るなどして取引が終了してしまうと、相手方の事業経営上大きな支障が生じるため、それが著しく不利益な要請であっても、相手方がこれに受け入れざるを得ないような場合が「優越的な地位」にある場合と考えられています。
この内容を見てもおわかりのとおり、「優越的な地位」の判断は、当事者間の関係や要請の内容など個別のケース毎に判断が異なることになるのです。
今回のケースで言えば、amazonはネット通販の巨人ともいえる存在ですから、amazonとの取引が終了してしまうと、事業運営に支障をきたすという取引先は多いと考えられます。あとは、協力金要請の内容として金額やその目的(理由)が正当かどうかが問題になるのではないかと思います。
下請法適用の問題
では、amazonほど大きな企業でなければ、取引先に協力要請する事について法的リスクを心配しなくて良いのでしょうか。
他に気をつけて頂きたい法律として下請法があります。
下請法は、先程みた「優越的な地位」の判断のように個別具体的な事情から複雑な検討を経て適用されるかが判断されるのではなく、契約当事者の資本金の大小と、取引内容から形式的に適用されるという点に特徴があります。
例えば、資本金1500万円の会社と資本金1000万円の会社のような中小企業同士の取引でも、取引内容(メーカーと部品サプライヤー、ゲーム製作会社とコンテンツの下請事業者など)次第で下請法が適用されるのです。
そして、下請法では先程の優越的地位の濫用で禁止されるような行為も禁止されていますので、このような中小企業間の取引であっても、相手方に「協力」を要請する時は、それが下請法に違反しないか注意する必要があるのです。
下請法上、協力要請が違法となるかどうかの判断基準としては、協力を求める見返りとして、相手方に何らかの直接の利益があるかどうかがポイントになるとされています。
そして、単に相手方との取引関係が維持され継続出来るということ自体は「直接の利益」とは考えられていないので、例えば協力金の目的が、取引に使うシステムの整備費用であって、それによるメリットと協力金の金額が見合うような場合でなければ、協力金の支払いは相手方に利益がないと判断されることになるのです。
このように、amazonがやっているのだから、うちも…とは単純にはいかないので、ご注意ください。