あいまいな発注は下請法違反の第一歩?
ソフトウェア開発やデザイン、映像作成などのコンテンツ制作の下請でありがちな話ですが、発注元からの指示があいまいな挙げ句、クライアントの気に入らずボツとなり、代金も払えてもらっていないというご相談を受ける事があります。
請負契約では完成した仕事に対して報酬を払うこととなっており、注文主が満足する仕事を仕上げなかったのだから報酬を払わなくともよい(もらえなくとも仕方が無い)と考える方もいるかも知れませんが、下請法の下ではそうとも限りません。
下請法は、一定の取引内容について、契約当事者間の資本金額に応じて形式的に適用される法律ですが(下請法の適用についてはこちら)、上記の様なコンテンツ制作の下請は「情報成果物の作成委託」として下請法の適用対象となる取引とされることが多いです。
では、下請法の適用となる場合、先のようなケースではどのような点が問題になるのでしょうか。
下請法では発注内容を明確にする書面(3条書面)を交付しなければならない
下請法では、下請内容を明確にする書面を親事業者が下請事業者に交付する事を義務づけています。これは、従来の下請取引の関係において発注内容をあいまいにしたまま仕事を進めさせて後でトラブルになっても、下請事業者側に証拠となる契約書がないために泣き寝入りをするようなケースが多く、このような事態が生じることを防ぐために設けられたルールです。
この書面(下請法で定められる条項に基づいて、一般に「3条書面」と呼ばれています。)に記載すべき内容としては、当事者の名称の他、対象となる給付の内容や、納期、納入場所、報酬金額、報酬の支払期限などが挙げられています。
以上の事項の中には、発注の時点で明確にすることが困難なものもあり、内容が定められないことについて正当な理由がある場合には、発注の時点ではその事項を記載せずに、当該記載ができない理由や当該事項が明確になる予定期日を記載した3条書面を交付することも適法とされています。しかし、一部に定められない内容がある事を理由に、3条書面そのものを交付しない事はNGですし、また、定められなかった内容が確定した時点で、直ちに3条書面を補充する書面を交付する義務があります。
正当な理由無く受領拒否をしてはならない
下請法は、下請事業者が成果物を納入する場合に、下請事業者に責任が無いのに受領を拒むことを禁止しています。
先のケースでは、発注元の指示があいまいであるために結局ボツになっているのですが、このような場合にまで下請事業者に責任があるとすることは難しいと思われます。つまり発注内容がある程度具体的であれば、それに基づいて発注元側から不満な点を指摘でき、これに基づいて受領しないとしても正当な理由があると言えるのですが、そもそも発注内容が具体的でないと、発注元の指摘は恣意的なものにすぎず、下請事業者に責任があるとはいえなくなるからです。
正当な理由無く、給付内容を変更したり、やり直しをさせてはならない
同様に、下請法では下請事業者に責任がないのに、委託内容を変更したり、受領後にやり直しをさせることを禁止しています。
先のように、給付内容を明確にしていないケースでは、そのまま下請事業者に仕事をさせると、下請事業者は不十分な情報に基づいて作業をせざるを得ませんが、このように不十分な指示内容しか無い状態で作成されたものについて、発注元の気に入らなくとも、下請事業者の責任ではありませんから、このような場合に下請事業者に対して手直しを要求することは、下請法が禁止する不当な給付内容の変更や不当なやり直しに該当することになります。
まとめ
このようにコンテンツ制作の下請にあたって、発注内容を明確にして3条書面を交付しないと、書面を交付しないこと自体が下請法違反ですし、発注内容が不明確であるために、その他の違反にも繋がる事になります。
発注内容の性質上、予め明確にすることが困難で、下請事業者の製作したものを元に試行錯誤しながら具体化する必要があるということであれば、そのような事情を3条書面に明記した上で、そのような試行錯誤が必要な状況も踏まえて報酬を定める必要があることになります。(仮に、このような試行錯誤が必要なプロセスを無視して、直ぐに完成品を製作する場合に見合う報酬しか定めなければ、買いたたきの禁止という別の下請法違反となる可能性があります。)