職場でのハラスメント
今回は、職場で発生するハラスメント行為について考えたいと思います。
ハラスメント(Harassment)とは、その英語の意味が示すとおり、相手を困らせる、悩ませる行為であり、広くは「嫌がらせや相手を不快にさせる行動」のことを意味するとされています。
ハラスメント行為は人が集まるところであれば発生しうるわけで、ネットでは30種以上のハラスメントの類型が紹介されています。職場でのハラスメント行為としてよく知られているのは「セクハラ」や「パワハラ」ですが、これらのハラスメント行為によって、どのような法的問題が生じるのでしょうか。
(1)被害者の加害者に対する損害賠償請求
セクハラやパワハラが行われた場合、被害者の人格権(性的自由や名誉など)や平穏な職場環境で働く利益が侵害されたとして、不法行為責任に基づく損害賠償請求が問題となり得ます。
ではどのような基準に基づいて損害賠償請求が認められるのでしょうか。
例えば、セクハラの説明として「相手が不愉快に思ったらセクハラだ」というものもありますが、裁判で損害賠償請求が認められるかの判断基準として、被害者本人の感じ方が基準となるわけではありません。(そうすると、セクハラの訴えが100%認められることになってしまいます。)
実際の裁判では、同じような状況において一般人であればどのように捉えるかということを基準に判断がなされます。つまり一般常識に照らして許される限度を超えた行為がなされたかどうかという形で判断がなされます。
上記の「相手が不愉快に思ったらセクハラ」という基準は、人の受け止め方はそれぞれだということ(自分の基準が一般的とは限らないということを含め)から、そもそもセクハラが問題になるような事態を避けるためのものとして理解して頂ければよいかと思います。
(2) 被害者の会社に対する損害賠償請求
被害者の加害者に対する不法行為に基づく損害賠償請求権が成立するとすると、今度は、加害者のハラスメント行為に対する会社の使用者としての責任等が問題となります。具体的には、被害者から会社に対する不法行為に基づく損害賠償請求という形になって表れます。
また、不法行為とは別に、会社は、雇用契約に基づいて、従業員が安全に勤務できるよう職場の環境を整える義務を負っていると考えられているため、ハラスメント行為を防げなかったことについて債務不履行責任を問われる可能性もあります。
このようなことから、会社としては普段からハラスメント行為の防止に向けて役員や従業員に教育する機会を作ったり、相談窓口を設けて、ハラスメント被害の相談があったら適切に対応できる体制を整えておく必要があります。
(3) 会社の加害者に対する処分
会社としてハラスメント行為を認識した場合には、その加害者に対しての就業規則等の社内規則に基づく処分を検討する必要があります。
個別のハラスメント類型の検討は回を改めたいと思いますが、ハラスメント行為として違法な行為か否かが微妙なケースは多くあり、判断に迷うことは少なくありません。また、懲戒処分を下した場合に、その判断が厳しすぎて不当であると加害者とされた当事者から不服申立がなされる場合もありますので、安易な判断は禁物です。
更にいえば、会社として裁判所における損害賠償請求が認められる基準と同一の基準を採用する必要はないわけで、会社としてこのラインを超えたらアウトですということで裁判所よりも厳しい基準を課すことも考えられますので、会社としてのスタンスを日頃から明確にするということも考えておくと良いと思います。