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パワハラと指導の間

前回のセクハラに引き続き、今回はパワハラについて取り上げたいと思います。

パワハラとは

パワハラとは、厚生労働省の定義によると「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内での優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」と定義されています。

セクハラにおける男女雇用機会均等法のような根拠法はないのですが、加害者と被害者の間の不法行為責任(会社の使用者責任にも繋がります)や、会社の職場環境を配慮する義務との関係で損害賠償請求等が裁判の対象となり、前記のように厚生労働省による定義がなされるまでに至ったという経緯があります。

ちなみに職場内での優位性とは、職位の上下だけに限らないため、専門知識や経験、人間関係等、その人そのものに備わる要因によっても優位性は成立しうることになります。(ITに詳しい若手社員が、疎い上司に嫌みを言う場合など)

厚生労働省はパワハラについて6つの類型を挙げており、①身体的な攻撃、②精神的な攻撃、③人間関係からの切り離し、④過大な要求、⑤過小な要求、⑥個の侵害がパワハラに該当するとしています。(代表的なパターンを紹介しただけで、これらに該当しなければパワハラにならないということではありません。)(また、被害者がパワハラだと感じたらパワハラになるということでもありません。)

例えば、暴力を振るったり、長時間にわたって罵倒し続ける(小一時間問い詰めて損害賠償請求が認められたケースもありました)、全く仕事を与えなかったり、不相応な仕事を押しつける等の行為がパワハラだというのは皆さんも納得されるのではないでしょうか。

従って、上司にあたる立場であれば、このような行為はしてはいけないと気をつける必要がありますし、また、誰かがこのような行為をしているのであれば、それを止めたり、適正な処分をする必要があります。

問題なのは、業務上の指示や注意を与えているつもりなのに、相手から「なんか、それってパワハラじゃないですか?」と言われたり、そのような発言が漏れ聞こえたりする場合がある事です。つまり、業務上の指導とパワハラの区別がつきにくいという点が問題になるのです。

パワハラと業務上の指導の境界

この点についての1つの回答が、厚生労働省の定義にもある業務の適正な範囲を超えているかどうかという点です。

働いていれば皆さん感じることですが、仕事というのは大抵が精神的又は肉体的な負担やストレスを感じるものですので、これらが全てパワハラだということにはなりません。

その意味で、業務の適正な範囲のものであれば、上司の叱責や指導によって部下が精神的・肉体的なストレスを感じたとしても、それはパワハラにはなりません。上司の職責には部下の指導が含まれるのですから、パワハラが怖くて指導が出来ないということであれば、上司としての職責を果たしたことにはならないのです。

では、次に気になるのは「業務の適正な範囲」はどのように考えれば良いのかという点だと思いますが、最初に答えを言いますと、残念ながら、どの職場にも当てはまる「業務の適正な範囲」という便利なものはなく、それぞれの職場毎に考えていく必要があります。

例えば、殴ったり蹴ったりという暴力行為についてはどのような職場においても業務の適正な範囲外であって許されないのですが、例えば「馬鹿野郎」とか「ふざけるな」というような罵倒が、どの職場でもすぐにパワハラになるのかというそうではないと思うのです(何十分も罵倒し続けるような場合は別ですが)。

私の勝手なイメージですが、営業部と総務部では職場の雰囲気も違うでしょうし、それぞれの職場にふさわしい指導の仕方といものがあると思います。

一番の問題は、指導をする側と、受ける側でパワハラに対するイメージが異なることだと思います。年配の人にとっては鉄拳制裁だって当たり前の職場にいたという人もいるでしょうから、叱責ぐらいどうってことないと考えているかも知れませんが、若い人にとっては学生の頃から「パワハラ」という言葉が耳に入ってきて、それが許されないというのが当たり前の世界(学校での教師からの体罰も厳しく禁止された世代です。)で育ってきたわけですから、少し厳しく指導されたぐらいでも「これってパワハラだよな」と不満を抱えることになるのです。

つまり、パワハラと指導の間が区別しづらいのは、当事者間の認識にギャップがあるためで、これを解消するには会社としてガイドラインを策定したり、部署内でのコミュニケーションを良くして指導の意図を明確にしたり、何がパワハラで何が適正な指導なのかのイメージを共有するしかないと思います。

ご参考になればと思います。