下請法違反となる「支払遅延」
下請法では、予め定めた支払期日までに下請代金を支払わなければならないとしており、また、支払期日は下請契約の対象となる給付を受けた日から60日以内で設定しなければならないとしているので、下請代金は、給付から60日以内(それよりも短い支払期日を定めた場合はその日まで)に支払わなければなりません。
ちなみに、発注時に支払期日の指定があいまいだったり、支払期日が全く決められていない場合には、受領日に直ちに支払わなければならないので注意が必要です。
部品の在庫をあらかじめ納入させている場合
部品などを発注する下請取引では、親事業者の側で、在庫部品が不足し製造ストップに陥らないように、予め部品業者に多めに親事業者の倉庫に収めさせておいて、親事業者が必要な都度、倉庫から部品を取り出して使うという取引方法をとることがあり、この場合に良くあるのが、親事業者が部品を自分の倉庫へ予め納入させているにもかかわらず、部品を実際に使った時点を「給付」として考えて、使用した日以降に代金を支払っているケースです。(コック方式、使用高払方式と呼ばれているようです。)
部品業者も表向きは納得ずくなのでしょうが、親事業者の倉庫に納入した段階で、部品の製造原価は発生している訳ですから、本来はその時点で代金を請求出来るようにしたいところです。
このような場合について、下請法のガイドラインでは、部品業者が納入した時点で支払期日のカウントが始まるとしているので、納入から60日(それよりも短い支払期限を定めている場合にはその日)を経過した時点で親事業者が部品を倉庫で保管したままだったとしても、支払義務が生じることになります。
なお、このようなスキームをどうしても維持したいという場合には、下請事業者が、親事業者に対して部品を保管してもらうという形をとって、親事業者が必要になった時点で売買が成立したという形にすれば、支払期限の問題はなんとかクリアできますが、そもそもこのような不利な条件を押しつけることが「買いたたき」に該当しないか、また、納入させたものの長いこと使用せず「売買」を成立させないことが「受領拒否」に該当しないか等が問題となります。また、下請法とは離れますが、下請事業者という第三者の商品を自分の倉庫で預かることになることから、倉庫業登録を要するのではという問題も生じ得ます。
ですので、使用する時点を基準に代金を支払うというのは、下請法違反等のリスクがある取引形態といえます。
システム開発などの情報成果物作成委託の場合
下請法で支払遅延が問題となる場合の「給付」の起算日は、親事業者が給付の目的物を事実上の自身の支配下に置いた日を指します。従って、親事業者が目的物の納入を受けた時点で「給付」が成立しますので、その日から、目的物が委託内容を満たすものか確認するための検品作業をしないまま60日(又は発注時に決めた支払期限)を過ぎてしまうと支払遅延ということになり、検品が遅れたことは言い訳とはならないので注意が必要です。
システム開発などの情報成果物作成委託の場合、開発の過程で、発注者側のシステムに組み込んでテストするという工程が入ることがあります。このようなケースでは、お互いに目的物が未完成な状態なのは納得しているはずなのですが、形式的には、目的物が発注者の支配下に置かれていると評価される事になり、未完成な状態であっても納入した日が支払期限の起算日となってしまうという不都合があります。
このような事態を防ぐためには、お互いの暗黙の了解だけでなく、その内容、すなわち問題となる情報成果物が委託内容を満たしているかが不明な場合には、給付目的の情報成果物が委託内容を満たすような一定の水準に達していることを確認した時点で「給付」があったとみなすことの合意を親事業者と下請事業者の間でする必要があります。
この場合には、テストのために不完全なまま発注者のシステムに組み込まれた日ではなく、テストと修正を経て一定の水準に達した時点で「給付」があったものと扱われます。なお、予め発注書面に記載された納期日に発注者側の支配下に目的物があれば、発注者側の確認が終わっているかを問わずに「給付」があったことになるので注意が必要です。
支払遅延をした場合のペナルティ
支払遅延をした場合、下請法違反として行政処分の対象となりますし、下請事業者との関係では給付を受けた日から60日(発注書で定めた支払期限ではありません)経過後の遅延日数に応じて14.6%の遅延利息を追加で支払う義務を負うことになります。