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裁判(民事訴訟)の実際

あまり関わりあいになりたくはないですが、支払うべきお金を払ってくれない、権利を侵害されて損害を被ったが弁償してくれないなどというときに最後の手段となるのが裁判(民事訴訟)です。今回は、民事訴訟の基本とその実際についてまとめてみたいと思います。

民事裁判と刑事裁判

まず、日本で「裁判」という場合、大きく民事裁判と刑事裁判があります。
刑事裁判は、法律で刑罰が定められている行為(犯罪行為)について裁くもので、原則として検察官が起訴し、裁かれる人は被告人となります。

これに対して、民事裁判は個人や企業などの法人の間の法律関係について判断するものです。

例えば、AさんがBさんに怪我をさせられた場合、BさんはAさんに怪我をさせたわけですから、傷害罪という犯罪行為に該当する可能性があります。また、人に怪我をさせる行為は民法上、不法行為として損害賠償請求権を発生させます。

このため、AさんとしてBさんに刑事処分を与えたいという場合には、警察に被害届を出して検察官が起訴するように促すことになります(刑事裁判)。他方で、損害賠償として治療費や慰謝料を払って欲しいという場合には、民事裁判を自分で起こすことになります(民事裁判)。

ちなみに、検察官は担当する事件について起訴するか否かを判断する裁量があり、刑事事件であれば必ずしも起訴して刑事裁判とする訳ではなく、その判断が不当な場合の救済措置として検察審査会という制度があります。

民事裁判の目的とは

民事裁判の機能にはいくつかあるのですが、その主な目的としては、①当事者間に争いのある事項についての裁判所の判断の確定と、②相手方の意思にかかわらず権利行使する強制執行をするための根拠(債務名義)になることだと思います。

前者については、相手方に権利がないということの確認を求めることも可能であり(債務不存在確認訴訟)、紛争の相手方から権利主張をしつこくされていて早く解決したい場合に、相手方が主張する権利がないことの確認を求めるという裁判も可能です。

後者については、いくら相手に対する権利が明確であっても、自分で相手の家に行ってお金を取ってくれば泥棒(窃盗)ですし、相手の預金口座がある銀行に行っても、銀行が相手の代わりに払ってくれることはありませんが、裁判で判決が得られれば、強制執行という手続によってこのようなことも可能となります。

民事訴訟の提起

民事裁判を提起するのはそれほど難しくはありません。訴状に必要な印紙を貼って、裁判に関する連絡に必要な郵送費用と共に、裁判所に提出すれば民事訴訟の提起は可能です。

裁判をするのに必ずしも弁護士を立てる必要はなく、原告と被告の双方に弁護士がつかない本人訴訟のケースが15%、原告だけ弁護士がつくケースが38%あり、原告・被告ともに弁護士がつくケースの42%と比べても、かなりのケースで本人だけで対応していることになります。

なお、裁判の当事者以外で訴訟に対応する訴訟代理人になれるのは基本的に弁護士だけですので、法律に詳しい友人や親戚に裁判での代理人を頼むことは出来ないので注意が必要です。

民事裁判の手続の流れ

訴状を裁判所に提出すると、数日中に担当部が決まり、書記官から最初の期日の相談があります。(この時点で、これまでの交渉の経緯や和解の可能性などについて照会をされる場合もあります。)

裁判所の忙しさにもよりますが、概ね1カ月~2カ月程度先に最初の期日が決められて、相手方にも訴状が送付(特別送達という特別な郵便が用いられます。)されます。
相手方は、最初の期日までに答弁書という書類を作成して裁判所に提出する必要があり、これを提出せずに最初の期日にも出頭しない場合には、基本的には相手方が主張するとおりの判決がでることになります(俗に欠席判決と言われます。)

反対に、相手方の請求を争う内容の答弁書提出すると、取り敢えず最初の期日は欠席しても手続上は問題ありません。(裁判所の書記官と2回目の期日の打ち合わせをする事になります。)

最初の期日以降は、当事者がお互いに、主張書面(準備書面と呼ばれます。)と証拠を交互に出し合って、裁判所に何が争点で、自分の主張とそれを根拠付ける証拠として何があるかを示して行く事になります。裁判所での手続には「口頭弁論期日」と「弁論準備手続」の二種類があります。前者は公開の法廷で行われるもので、後者は書記官室の奥にある非公開の小部屋で行われる手続です。お互いの書面と証拠を出し合うという段階であればそれほど大きな違いはありませんが、弁論準備手続の方が小部屋で距離が近く、非公開ということもあって、わりと率直に主張や意見が交わされることもあります。ただ、自分の事件の順番待ちで他の事件を見ていると公開の法廷でも似たようなやり取りはあります。
特に口頭でのやり取りがなく、提出された書類の確認と次の期日の決定で用事が済んでしまう期日があり、このような期日についてはわざわざ出頭しなければならないのははっきり言って時間の無駄なのですが、現在の手続上はしょうがないです。

このような主張書面と証拠の出し合いが続くと、ある時点でこれ以上はもういいですねということになって、証人調べをどうするかということになります。証人も証拠の一つなのですが、何せ証人調べには時間がかかりますし、事件全体の事を証言してもらう場合もあるため、通常は争点と他の証拠が出揃う最後の最後に行うかどうかが決められます。

ちなみに裁判を提起したからと言って、必ず判決で終わる訳ではなく、相手方との和解で終わる場合もあります。例えば、訴訟を提起したことで相手方が和解を提案してくる場合もありますし、裁判所が和解の可能性について打診して内容の調整に関与する場合もあります。
前者は、相手方が自分に非があることは分かっているものの、請求を拒否していれば相手が諦めるだろうと泣き寝入りを狙っていたような場合に多いです。また、後者については、裁判官も判決を作成するよりは楽なため、和解が出来そうな事案であれば割と積極的に勧めてきます。ちなみに、判決よりも、被告が同意の上で成立する和解の方が、原告側が請求内容の実現(金銭の回収など)がしやすいという側面もあります。

和解のタイミングとしては、最初の期日や、ある程度の主張や証拠が出揃う証人調べの前、または、証人調べの後などが多いです。和解が成立しなければ最終的に判決となります。ちなみに判決が出る期日は当事者は出頭する必要はありません(私も滅多に出ません。)。

裁判の期間

裁判と聞くと長期間かかるイメージがあると思いますが、実際にはどの程度かかるのでしょうか。

これはケースバイケースと言わざるを得ませんが、例えば相手方が全く争わない欠席判決の場合には初回期日の1週間後に判決という場合もザラですから、2カ月もかからずに判決という場合が多いと思います。

他方で、相手方が争うとなると、正にケースバイケースですが、やはり売買代金の支払いなど争点が絞りやすく証拠が揃っていれば事実認定も簡単なケースであれば半年~1年くらい、他方で、欠陥住宅に関する建築紛争や医療訴訟になると2年はかかるというイメージです。

裁判の理想と現実

日本の民事訴訟の手続は、このようなものであり、判決が得られれば(裁判上の和解もそうですが)、相手方の財産(不動産や預金口座など)に対しても強制執行が可能となる強力な紛争解決なのですが、当事者の期待通りの結果を生むとは限りません。

まず、判決を得ても相手に強制執行可能な財産があり、それをこちら側が把握していないと、事実上、権利の実現が困難となります。「ない袖は振れぬ」というのは判決の前にも立ちはだかる障害であり、相手方の強制執行可能な財産を調査する手続が現実的に機能していないことからも、判決を得ても相手方に強制執行出来るかという点が、民事裁判を提起する上での大きな問題となります。ちなみに、預金口座への強制執行のためには、以前は取引支店を特定する必要があったのが、最近では大手銀行を中心に緩和されつつありますが、まだまだ不十分であるといえます。

次に問題になるのが、裁判所の認める損害が保守的であるという点です。米国などでは、3倍賠償などの制度があり、驚くほど高額の賠償額が認められることがありますが、日本の裁判では3倍賠償などの制度はありません。また、間接損害のハードルも高く、慰謝料の金額の低くなりがちなため、裁判所が認める損害額は低くなる傾向にあると言えます。
その意味で、加害者からは「やったもの勝ち」というような状況になっており、例えば詐欺的商法を行っても、上手くすれば被害者の泣き寝入りにより責任を免れ、仮に、訴訟をされても受け取った金額だけ弁済すればそれだけで済む場合が多いですから、レピュテーションを考えなければ、多少きわどい商法であってもやった方が得という状況になってしまっています。

以上の様なことから、裁判をやっても意味が無いと考える当事者少なくなく、紛争解決手段として民事裁判がその期待に応えられていないという問題点があると思います。相手方に執行可能な資産がなければ本当に仕方が無いですが、財産調査にもう少し有効な手続を導入したり、また、もう少し現実に見合った損害額の認定をする事が、民事裁判が紛争解決手段として機能するためには必要だと考えています。