前科情報と忘れられる権利
児童売春の疑いで逮捕され罰金の略式命令を受けた男性が、前科情報に繋がるWeb検索結果の削除をGoogleに求めた裁判について、2017年1月31日付で最高裁から決定がありました。
今回の最高裁の判断では
- 問題となった事実の性質及び内容
- 検索結果によってプライバシーが侵害される範囲とその被害の程度
- プライバシーを侵害されたとする人の社会的地位や影響力
- 検索結果に表れた記事の目的や意義、記事掲載時の社会的状況やその後の変化
- 検索結果に表れた記事において問題となった事実を記載する必要性
等の要素を元に、問題となった事実を公表されない法的利益とURL情報を検索結果として表示する意義・必要性を比較して考慮し、前者が後者に優越することが明らかな場合に、削除を求めることができるという判断基準を示した上で、今回のケースでは、前科を公表されない法的利益が、URL情報を検索結果として表示する意義・必要性に優越することが明らかとは言えないという結論を導いています。
さいたま地裁が言及していた「わすれられる権利」には触れていませんが、その考え方は今回の判断にも組み込まれているのではないかと思います。(それほど強くはありませんが。)
Googleなどの検索機能を使って、人の名前を検索しようとすると、まずその人名に関連するキーワードが追加の検索条件として提案され(サジェスト機能)、また、検索結果についても単なるURLだけでなく、URLの先の各ページの最初の部分や要約(スニペット)が検索結果画面に表示されるというのが現状としてあります。
そうすると、人の名前をGoogle等の検索窓に入力したときに、「○○(人の名前) 詐欺」とか「○○(人の名前) 逮捕」などのネガティブワードが出て来たり、検索結果が表示された時点で、このようなネガティブワードが各URLを開かなくても検索した人の目につく事になります。
そして今は、取り敢えずググれという時代ですから、初めて会った人の名前を取り敢えず検索するとか、求人に応募してきた人の名前を検索したりとかすると、過去のあれこれが出てくるということが問題となっているわけです。特に、今は学校で子ども達に両親の名前で検索してみようなんて恐ろしい課題がある時代ですから、ネガティブ情報がネット上で自分の名前と紐付いている人は、普通の生活が送れないということがあってもおかしくありません。
今回の最高裁決定は、判断基準を示した上で、今回のケースでは削除を認められないとしただけで、今後の削除請求の道を閉ざしたわけではなく、今回示された判断基準に則って削除をする法的利益が優越することが明らかと主張・立証できれば削除は認められる事になります。
ただ、今回の決定の文言からは、前科情報が検索結果に表れる本人への負担について十分に理解できているのか?という疑問も感じます。ただ、今回の削除請求の対象となったのは、個別の前科情報を含む記事ではなく、それらに繋がる検索結果自体であって、このような検索機能を国民の知る権利を助けるツールとして重視していることが決定の文言から伺えるので、ここを重視されると、検索結果からの削除請求というのは今回の決定によってかなりハードルがあがってしまったと言えるのかも知れません。
今回の最高裁決定の基準を、個々のケースに当てはめるとどのような結果になるのかは、今後の判例の積み重ねが必要になると思いますので、注目していきたいと思います。