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南極殺人事件?

紀伊國屋書店洋書部のツイートで、南極で初めて(?)起きた殺人未遂事件について紹介されています。詳しくはリンク先の記事にありますが、南極基地に4年間滞在していた55才の研究者が、自分が読んでいた本のネタバレを52才の同僚がした事に腹を立てキッチンナイフでこの同僚を指したという事件で、被害者の同僚は心臓も刺されて重傷のようです。

当事者の年齢を考えるといい歳をしてとも思いますが、南極という娯楽の少なそうな場所で楽しみにしていた本のネタバレをされたら、そりゃ怒るよね(でも刺してはいけない)という珍事件ですが、この事件、どの国が裁くことになるのでしょうか?

南極は南極条約によって領土主権を主張しないといことになっており、どの国の領土でもありません。では、日本人が南極で殺人事件を犯しても何の処罰も受けないのでしょうか?

外国での犯罪行為に対する処罰

これは日本人が日本の領域外で犯罪行為を行った場合、どのように処罰されるのかという問題です。

まず第一に考えられるのが、行為を行った国の法律が適用されるケースです。実は、それぞれの国が、誰の、どのような行為に対して処罰を出来るのかは、国家主権が何処まで及ぶのかとも関連し、色々な考え方があるのですが、一般的に自国の領土内で行われた犯罪行為に対して、その国が処罰できるというのは最も基本的な考え方です。従って、日本人がアメリカで殺人事件を犯せば、アメリカの裁判所がアメリカの法律を適用して処罰されますし、中国であれば中国の法律・裁判所で処罰される事になります。

しかし、上記のとおり南極の場合は、南極を領土とする国がありません。

この場合、刑法には国外犯に関する規定があり、この規定の適用を考える事になります。この国外犯の規定には次のようなパターンがあります。(いずれも海外での行為である事が前提です。日本国内の事件であれば当然に日本の刑法が適用されるからです。)

  1. どの国籍を有する者に対しても処罰する場合
  2. 日本国民に限って処罰する場合
  3. 日本国民が被害者となる場合に限って、日本国民でなくとも処罰する場合
  4. その他、日本の公務員の行為である場合や、条約によって処罰が認められる場合など

上記1のパターンは、内乱罪や通貨偽造など、外国における外国人の行為であっても日本の国益が損なわれるような場合です。2のパターンでは、上は殺人から下は名誉毀損まで割と幅広く、日本国民が海外で犯罪行為を行った場合の処罰について定めています。3のパターンでは殺人・傷害や強盗、強制性交等のわいせつ系など、日本人の生命・身体が侵害された場合を中心に、海外で外国人が日本人に対して行った行為について処罰できるとしています。

従って、日本人が南極で殺人事件を行った場合には、被害者が何国人であろうと日本の刑法で裁くことができる事になります。また、日本人が南極で殺人事件の被害に遭った場合も同様です。

ちなみに先日、中東でテロリストに監禁されていた安田純平氏が解放されたという事件について、日本の警察が捜査しているという報道がありましたが、これも日本人が被害者となった逮捕監禁事件であるため、上記3のパターンとして日本の法律を適用しうる事案であるとして捜査をしている訳です。

一方で、日本人が海外旅行中に財布をすられたような事件の場合、単純な窃盗ということであれば、上記パターン3には当てはまらないため、犯人が日本人である(パターン2)というな特殊な場合を除いて、日本の法律は適用されず、警察も取り扱えない事になります。(暴力などを伴う場合で強盗となる場合や、薬やお酒などで意識を失わされた場合も昏酔強盗などはパターン3に該当します。)

なので、海外での事件について日本の法律が適用されるかはケースバイケースということになります。ともあれ、人の楽しみは邪魔しないようにしたいですね。