スポンサーリンク

下請法と運送業

今回は、中小の運送業者(個人事業でやっている場合を含みます。)が、運送業務を請け負っている場合にどのようなルールが適用されるのかについて考えてみたいと思います。

このような運送業務の請負の場合、直接の取引相手によって、二つの場合が考えられます。一つが、宅配業者などの運送業者から請け負う場合(荷主からみたら再委託となる場合)で、もう一つが、通販業者などから請け負う場合(荷主から直接請け負う場合)です。

宅配業者などの運送業者から請け負う場合

この場合、取引相手である宅配業者と、下請となる運送業者のそれぞれの資本金の金額によりますが、下請法が適用されることになります。

具体的には、宅配業者の資本金が3億円超であれば、下請運送業者の資本金が3億円以下であれば、また、宅配業者の資本金が1千万超であれば、下請運送業者の資本金が1千万以下であれば下請法が適用されます。下請運送業者が個人事業主であれば、宅配業者の資本金が1千万円超であれば下請法が適用されることになります。

下請法が適用される結果、①支払いの遅延や、②下請代金の減額、③買いたたき、④不当な経済上の利益提供要請や、⑤不当な給付内容の変更・やり直しなどが禁止されることになります。

また、契約書面などの作成・保管義務も適用されることになります。

通販業者などから請け負う場合

では、通販業者など、運送業務を第三者(荷主)から引き受けていない者から運送業務を請け負った場合はどのようになるのでしょうか。これは、役務提供委託取引について下請法の適用があるのは、親事業者となる業者が、第三者から委託を受けた業務の一部又は全てを委託する場合に限られ、親事業者自身の業務を、下請事業者に対して役務提供委託する場合には下請法の適用がないからです。

例えば、通販業者がお客さんから注文を受けて、商品をお客さんに引き渡すために配送する業務は、通販業者にとっては自分の業務になります。これを宅配業者に委託する場合、宅配業者は、通販業者から委託を受けた業務になりますので、これを下請事業者に対して再委託すれば、(資本要件を満たす限り)この再委託に対して下請法が適用されることになります。
これに対して、通販業者が、宅配業者を介さずに、下請業者に対して直接配送を委託する場合には自分の業務になるため下請法の適用がないのです。

ただし、このような場合にも下請法が適用される場面で問題になるような不当なパワーバランスの行使が問題になるため、下請法の代わりに、独占禁止法の物流特殊指定というルールが適用されることになります。

独禁法の物流特殊指定が適用される条件としては、下請法と同様の資本要件があり、それに加えて、取引上の地位の優越がある場合も適用対象とされています。

また、禁止される行為としては、支払の遅延など、下請法が適用される場合とほぼ同じ内容が定められています。

下請法と独禁法(物流特殊指定)の違い

このように、同じ運送業務の請負でも、取引相手によって、下請法と独禁法(物流特殊指定)のいずれかが適用されるという違いがあります。

但し、ルールとして禁止される行為は殆ど同じですし、違反した場合の公正取引委員会がとる措置も、違反行為の取りやめや、関係者への周知、再発防止措置などは同じです。

しかしながら、下請法の場合、原状回復措置が法令上定められているため、下請事業者が不利益を被った分の回復を公正取引委員会が法令に基づいて勧告することが出来ます。(なお、独禁法(物流特殊指定)の場合には、このような原状回復措置を命じる措置は法令上認められないものの、現実問題として公正取引委員会からの処分を軽くするため、自主的に原状回復行為がされる場合が多いと考えられます。)
また、公正取引委員会からの処分に従わない場合、独禁法(物流特殊指定)では過料や罰金の制裁があるものの、下請法では過料や罰金の制裁はありませんが、下請法違反については同時に独禁法(優越的地位濫用)違反となる場合があり、下請法に基づく勧告に従わない場合には、独禁法(優越的地位濫用)違反に切り替わって、過料・罰金や、課徴金の対象となることが考えられます。