取引先に対する社長の責任
会社との取引でトラブルが生じて、いざ、この会社に対して裁判などを起こして請求をする場合に、会社にはどうもお金になりそうな資産がないかも…ということになると、よくお客さんから質問をされるのは「じゃあ社長に対しては何か請求できないんですか?」というものです。
これは相手方の会社の規模が小さく、場合によっては殆ど従業員がいないようなケースであるほど、お客さんから社長に対しても何か請求したいというご要望を受ける傾向が強いように思います。このような場合、商談やトラブル後の交渉の席にも社長が直接出てくるようなケースが多いので社長個人と取引しているような感覚があり、また、社長がこの会社の100%オーナーであることが多いでしょうから、無理もないように思うのですが、このような請求は可能なのでしょうか?
1 会社と、社長とは別人格です。
この問題を考えるにあたっては、「人格」ということを知る必要があります。
契約や取引、紛争の当事者となったり、財産の名義人となる資格と考えてもらって結構です。(権利能力と言ったりもします。)
生身の人間は基本的には権利能力を有し、他の人と独立した人格を有します。このため契約関係や何らかの法律上の原因がない限り、AさんがBさんの権利義務に関わることはありません。例えば、子どもは、親の借金について、連帯保証(契約)したり、相続(法令上の原因)をしない限り責任を持ちません。これは親と子も独立した人格を有するからです。
会社の場合どうかというと、法令に従って設立された会社には人格が与えられます。会社自身が権利義務の主体となったり、財産の名義人になれないと不便だからです。法律に従ってこのような人格が認められる事から「法人格」と言ったりもします。
もうおわかりと思いますが、会社と社長とは別の人格を有することになるので、先程の子どもと親の例のように何か契約があったり、法令上の原因がなければ、社長が会社の債務について責任を負うことはありません。
2 社長が会社の債務について責任を負う場合
(1)連帯保証をしている場合
もっともポピュラーなケースは、社長が会社の債務について(連帯)保証をしているケースです。銀行など金融機関からの借入に際しては、中小企業の場合には、社長が金融機関に対して連帯保証をしていることが殆どです。なので、会社が倒産すると、社長も同時に破産をしたりすることが多いのですが、これは社長が金融機関に対して連帯保証をしているからです。
逆に言えば連帯保証をしていなければ、会社が倒産しようが、債権者に対して社長が責任を負うということはないので、取引をするにあたって、いざとなったら社長個人に払ってもらうという心づもりであれば、社長にその取引について連帯保証させる必要があります。
(2)会社法上の責任(取締役の第三者に対する責任)を追及する場合
会社法は、取締役の第三者に対する責任を認めています。具体的には、取締役がその会社に任務懈怠について悪意・重過失がある場合には、これによって生じた第三者に対する賠償責任があるとしています。
法令違反などがある場合には、取締役の責任を追及しやすいのですが、単に会社の経営状態が悪くなって会社の支払能力が無くなってしまったというような場合には、会社の経営は常に上手くいくものではないので、この取締役の第三者に対する責任を追及するのは難しいと言えます。
(3)取締役の行為そのものが不法行為となる場合
会社と社長とは別人格なのですが、他方で会社は人間では無い以上、誰かしら生身の人間の行為者を必要とする場合が多いです。
例えば、商談をする場合、取引の主体はあくまでも会社なのですが、実際にしゃべるのは社長であるというような場合です。契約が成立し、特にトラブルが無ければ会社が契約当事者ということで何も問題はないのですが、では商談の際に、社長がわざと嘘を言っていたような場合はどうでしょうか。
このような場合、会社の代表者としての行為であると同時に、個人としての行為でもあるわけですから、わざと嘘をついて取引の相手方に損害を与えた場合には、故意過失によって相手方に損害を与えた場合として民法上の不法行為責任が発生することになると考えられます。
3 まとめ
このように、会社と社長とは基本的には別人格として考える必要があり、会社の債務について社長へも請求しようという場合には、契約上の原因や、法令上の原因などを必要とします。社長が会社の債務について責任を負うのは、上記が全てではなく、零細企業の場合には、そもそも会社と社長のどちらが契約当事者なのかという問題もありますので、具体的にお困りの事があれば、弁護士に相談されることをお勧めします。