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下請法違反の場合の損害金と時効期間

下請法違反が発覚した場合になされる公正取引委員会からの処分として「勧告」というものがあり(下請法7条)、その一つとして原状回復措置があります。

具体的には、下請法違反となる代金減額については減額分の支払いを、返品の場合には、返品したものの引取や代金相当額の支払いを、買いたたきの場合には当事者間の協議により相当額と定められた金額まで遡って引き揚げられることなどが勧告されることになります。

当事者間の取り組み

公正取引委員会が介入する前に、当事者間において下請法違反の事実が判明した場合、どのような対応を取るべきでしょうか。

将来に向けて違反行為が解消されるよう、取引条件や方法を変更する事は勿論ですが、過去の行為について、どのように補償するかがよく問題となります。

そもそも下請法は行政による取り締まりのための法令であって、下請法に基づいて取引当事者間の取引関係に直接の影響を与えるものではないという考え方もありまして、例えば下請法違反の内容が公序良俗違反といえるほどのものでなければそのような契約も有効とされる例もあります。

そうはいっても、下請事業者が下請法違反と主張してきていれば、親事業者としては公取の調査を避けるためにも、当事者間で解決しておくという判断をすることは十分に考えられます。

この場合、先程の「勧告」による原状回復措置のように、過去に遡って、違反により下請事業者が不利益を被った分を補償するというのがよくある解決方法であると思いますが、問題はその遡る期間と遅延損害金まで請求された場合にどうするかです。

下請法違反の時効と遅延損害金

この点については、あくまでも当事者間の示談である以上、当事者間で決めればよいのですが、対立当事者となっているため話合いは難しく、法律上どうなっているかは気になるところです。

まず時効に関しては下請法上特に時効を定めた規定はありません。

公正取引委員会の勧告では過去2年間に遡って原状回復措置が命じられることが多いようですが、これは下請法上、保存が義務づけられる書類の保存期間が2年間である事に合わせているものと考えられます。

ですので、公取の処分に倣って過去2年間というのが一つの基準になりますが、あくまでも当事者間の事として通常の時効期間(商事時効は5年ですが、製造請負の場合の2年など短期の時効もあるので注意が必要です。なお民法改正により5年に統一されます。)とする考え方もあるのではないでしょうか。

また、遅延損害金については下請法で14.6%の遅延損害金を定めているため、下請事業者から請求された場合に、これを常に払わなければならないのかが問題となります。しかし、下請法で遅延損害金について定める4条の2では、「下請代金」を期日までに支払わなかったときについての規定であるため、下請代金以外の違反、例えば下請事業者に関係のないものを買わせたり、不当に協力を求めたような場合の返金などは、下請代金の支払ではありませんから、下請法の14.6%を用いる必要はなく、通常の商事利息6%(こちらも民法改正に伴い3%とされます。)を用いることができると思います。

自主的な解決のメリット

下請法違反をしている親事業者の中には、違反の事実を認識して、将来的には改善するとしても、過去の分の補償までは…と消極的に考えているところもあるかも知れません。

しかし、公正取引委員会では下請法違反の事実を自主申告してきた親事業者について「勧告」などの措置をとらなかったと公表している事例があり、その中では、将来に向けて違反行為を取りやめていることは勿論のこと、過去の分の補償(当該事例では、少なくとも1年としています。)をしたことも「勧告」をしないことの理由として挙げています。

また、将来に向けて改善することで下請事業者側が納得しているように見えても、過去に不利益を被った分の補償を嫌がる下請事業者はいないはずで、表面上、諦めているに過ぎないのが通常です。

そうすると、親事業者としては解決したつもりでも、過去分の補償まではしてもらっていないとして、公正取引委員会に駆け込まれるリスクは依然として残る事になり、その場合に「勧告」処分を受ける可能性も残ることになります。

下請法などの法令遵守は、市場に参加し事業活動する上での最低限のルールですから、違反行為が分かったときにはできるだけ改善すべきであり、これにより下請事業者ともより良い関係を築けるのではないかと思います。