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旅行会社の倒産で知っておきたいこと

「てるみくらぶ」という旅行会社について破産手続が開始したというニュースがありました。

「旅行会社」って?

「旅行会社」と一口に言っても様々なタイプの会社があります。
具体的には、旅行業者と旅行業者代理業に分けられますし、旅行業者もその取り扱える内容(企画旅行を募集できるか受注だけか、また、旅行の範囲)に応じて第1種旅行業者から第3種旅行業者及び地域限定型の旅行業者に分けられます。

また、我々消費者が旅行会社に依頼する内容も、大きく分ければ企画旅行への参加をする場合と、手配旅行の依頼をする場合に分けられます。

企画旅行は、旅行会社が自ら航空会社その他の移動手段やホテル、オプションツアー業者と契約して旅行を企画し、消費者がその企画旅行に参加するタイプのものです。

手配旅行は、旅行会社が単なる取次として、消費者と航空会社や、ホテル、良好先のオプションツアー業者との契約を成立させるだけのものです。

今回の「てるみくらぶ」のケースでは報道の内容を見ていると前者の企画旅行のケースが多いように思われますが、この場合に何が起こるかというと、消費者は旅行会社に旅行代金を支払っても、旅行会社がその先の航空会社やホテルへ代金を支払っていなければ、航空会社やホテルとしてはサービスを提供する義務がないということになるのです。(現在、すでに旅行中の方でホテルに宿泊できなかったという方は、このような状態に陥っているわけです。)まだ、旅行に出発していない方についても、旅行会社が何処までお金を支払っているのか判らない以上、飛行機に乗れたが、現地の空港からホテルへの移動手段が確保されないとか、ホテルに泊まれない等のトラブルが発生する可能性があるわけで、旅行会社側が提案しているとおり、出発しない方が無難といえるでしょう(足りない分について自分で現地で支払って調達出来る方は別ですが…)。

単なる手配旅行であって、既に航空会社やホテルとの契約と旅行会社から航空会社等への支払が済んでいれば、旅行会社の役割は終わっておりますので、今回の破綻による影響はほぼないといえるでしょう。お金を旅行会社に払ったのに、まだ契約や旅行会社から航空会社等への支払が済んでいないといことであれば、飛行機への搭乗やホテルへの宿泊はできないことになります。

旅行が出来なくなった人は何が請求出来るのか?

①旅行業法に基づく弁済業務保証金制度からの支払

旅行会社は、上記のとおり、旅行をしたい消費者からお金を受け取って様々な旅行に関する契約を手配する訳ですが、今回の様に、消費者からお金を受け取ったのに旅行の手配出来ず、受け取ったお金も返せないというようなトラブルが発生し、消費者に損害を与えるような事態に備えて、旅行業法は営業保証金の供託制度を設けています。

つまり、旅行業者として営業を始めるにあたって、一定の保証金を預けておき、今回のようなトラブルがあったときに、その保証金を損害を被った消費者に支払うという制度があるわけです。

ただ、この保証金も無制限ではなく、既に一般社団法人日本旅行業協会がHPで告知していますが、今回のケースでの弁済限度額は1億2千万円となるそうで、報道されているとおり、一般旅行者の被害額が約100億円となるならば、それぞれの方がこの弁済業務保証金制度から受け取れる金額は旅行会社に支払った金額の約1%ということになります。

②破産手続からの支払

「てるみくらぶ」については破産手続が始まっています。こちらでも解説していますが、今後は破産管財人が「てるみくらぶ」の事業の清算と資産の売却を進めて現金化し、債権者へ分配するということになるわけですが、一般にこのような経営困難な会社では、税金や社会保険料の滞納をしているケースがあり、これらの債権は破産手続では優先的な弁済の対象となります。また、従業員の給与や退職金に未払いがあれば、こちらも破産法上、優先的な取扱をうけることになります。

ですので、旅行を申し込んでお金を支払った消費者が破産手続で配当を受け取るには、破産手続自体の費用や税金・社会保険料や労働債権等の優先的債権が支払われた上で、なお一般債権者(旅行者の有する債権が該当します)への配当を行う原資が残ることが条件となりますが、かなりハードルは高いと言えますし、仮に配当が行われるとしても、その配当率は高くないと考えられます。

なお、破産手続開始にあたって、「てるみくらぶ」で把握していた債権者(損害をうけた旅行者を含みます)に対する破産手続開始の通知が郵便でなされますが、その後の郵便による通知は配当がなければ行われないのが通常です。おそらくは破産管財人によってHP等を通じた情報提供がなされるでしょうから、破産手続の状況を知りたい方は、自分からHPを適宜チェックする必要があります。

また、そもそも破産手続開始の通知が来ないという方は、破産管財人等が開設するHP等で通知発送の時期を確認して、明らかに遅れているということであれば、自分から破産管財人に問い合わせをしないと、通知が来ないということもあり得ます。(破産する会社は土壇場の混乱で債権者がきちんと把握できていないということが時々あります。)

ちなみに債権者集会は、破産管財人からの説明を受けたり、質問をする機会ではありますが、出席したかどうかで、配当を受けられるか否かやその金額に影響は全くないので、純粋に経済的な目的であれば出席するメリットはありません。

③代表者への責任追及は?

一般に、会社の取締役は第三者に対して損害賠償責任を負うことがありますが(会社法429条)、本件の様な中小企業では代表者が金融機関などからの借り入れについて連帯保証しているケースが多く、会社と一緒に破産手続申立をしている場合が殆どです。そうすると、代表者への責任追及も現実的ではないということが一般的です。(本件では代表者や他の取締役の状況については情報がないため、あくまで一般論です。)

内定を取り消された人はどうなるの?

また、今回の件では多くの内定者がいたことも問題となっています。
3月末の破産ということで、より問題が深刻になっていますが、内定を会社側の都合で取り消された場合、一般には会社に対して損害賠償請求できるのですが、この請求権が労働債権として破産手続の中で優先的に取り扱われる可能性は低いと考えられます。(この点は破産管財人と裁判所の判断次第ですが、形式的には難しいと考えられます。)

そうすると、一般の旅行者同様に、内定を受けた方々が破産手続の中で損害賠償請求権について配当を受け取る可能性は低いということになります。

今後の注意点

今回の件で、被害に遭われた方の救済はなかなか難しいと思います。ただ、営業保証金への請求にしても、破産手続からの配当にしても、手続をとらなければ支払われないので、支払の見込額と手続をとることの労力を天秤にかけてどうするかを決める事になります。

また、世知辛い話ではありますが、このようなケースでは、被害回復をうたった詐欺的行為があることも想定されますので、そのようなアプローチには慎重な対応をお勧めします。

被害に遭われた方のご参考になればと思います。