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支払督促のメリット・デメリット

2017-06-09

売買代金や貸したお金、預けたお金を支払ってもらえないという事態は出来れば避けたいものですが、そのような状況に陥ってしまった時にどのような手段がとれるのでしょうか。

担保をとっているのでなければ、相手に何としても支払ってもある必要があるのですが、その方法として、いくつかの方法が考えられます。

相手側と(弁護士を代理人に立てるなりして)交渉した上で弁済してくれるのであれば良いのですが、そうでなければ法的手段をとることになります。

法的手段として思いつくのは通常の裁判(民事訴訟)ではないかと思いますが、より簡易な手段として支払督促という手続きがあり、今回はこの支払督促のメリット・デメリットについてお話したいと思います。

支払督促とは?

まず、支払督促を含めて法的手段をとる目的から考えますと、最終的に強制執行(相手方の意向に関係なく財産を強制的に処分して弁済に充てる手続です。)が出来るようにする事が目的となります。

つまり、相手がお金を支払ってくれないといっても、相手がお金を預けている銀行から勝手にお金を引き出したり、相手の不動産を勝手に処分することは出来ません。裁判所に「強制執行」を申し立てて、裁判所から銀行に支払を命じてもらったり、不動産を競売にかけてもらったりするのですが、裁判所がこの「強制執行」をするためには、申立人がそのような権利を持っていることを証明する書類(「債務名義」といいます。)が必要となります。

その代表格が、民事訴訟の結果として得られる「判決」なのですが、支払督促も債務名義の1つとして法律上認められています。(民事執行法22条1項4号)

支払督促の手続そのものは、比較的簡単で、簡易裁判所の書記官を宛先として、支払督促の申立書(当事者目録、請求の趣旨と原因を含みます)を請求額に応じた印紙と送達に必要な郵便切手(裁判所によっては封筒の準備を求められることがあります。)と共に提出すると手続が始まります。

支払督促の申立が適式になされると、裁判所は相手方(債務者)に支払督促が申し立てられた旨の通知を行い、異議があるのであれば申し立てるように促します。

この通知から2週間以内に、相手方から異議が出なければ、申し立てた債権者は、さらに仮執行宣言付与の申立を行い、この通知を受けた債務者から2週間以内に異議が出なければ、支払督促は確定判決と同様に「債務名義」として認められることになります。

支払督促のメリット

支払督促のメリットしては何といっても、書類が簡易であることと、スケジュールが予め決まっており、比較的短いことです。

訴訟と違って、支払督促においては証拠などを添付する必要はありません。また、相手方(債務者)の意見を細かく聞くこともありませんので、相手方から異議が出れば、その異議が正当なものかどうかを審査することなく、通常訴訟へ移行することとしています(この点は、後述のデメリットにもつながります。)。従って、通常の裁判(民事訴訟)のように、いつ終わるか分からないということはありません。

支払督促のデメリット

上記のとおり、手続の期限内に債務者から異議が出れば、支払督促手続は効力を失い、申し立てた債権者は引き続き債務名義の取得を目指すのであれば、民事訴訟を提起する必要があります(支払督促の時の費用は、移行後の民事訴訟の費用の一部となります。)。従って、異議が出されてしまうと、支払督促をしたこと自体が、基本的に、無駄になってしまいます。

また、細かい点ですが、支払督促は相手方(債務者)の住所を管轄する裁判所に申立しなければならず、異議によって訴訟に移行する場合には、その裁判所で手続が進められることになります。

支払督促をせずに最初から民事訴訟を提起する場合には、事案にもよりますが、自分(債権者)側の住所を管轄する裁判所に申立をすることが認められるのですが、上記のとおり支払督促は相手の住所に管轄が限られるため、自分と相手方の住所がすごく離れている場合には、大きなデメリットとなり得ます。(離れている場所で裁判をすることは、弁護士を代理人に立てるにしても結構な負担になります。)

どのような場合に支払督促を選択すべきか

まず、相手方が反論する可能性がある時には支払督促は適していません。異議によって通常訴訟へ移行せざるを得ない事になりますので、最初から通常の訴訟を提起したほうが手っ取り早いからです。

その意味で、相手方に反論の余地がないような事件、つまり払わなければならない事は明白なのに、手許にお金がないとか、単に払いたくないというような不埒な理由で支払を拒んでいるようなケースが向いていると言えます。

異議によって通常訴訟へ移行せざるを得なくなりますので、内容証明による請求とたいして変わらないという意見もありますが、やはり裁判所が関与する手続ということで相手方へのインパクトは一般的には大きいのではないかと思います。(このような債権回収を受け慣れている不良債務者には効かないかもしれません。)

支払督促を受ける側の注意点

このように簡単に債務名義がとれる手続として支払督促があるわけですが、その特性上、貸金業者などが、時効にかかったような本来支払が不要となる債権について一斉に支払督促を送って、一般消費者が手続になじみがないのを利用して、債務名義をとって強制執行しようとするという事案が時々あるそうです。時効ならまだしも、架空請求のようなものまで支払督促を申し立てるケースもあるそうですから注意が必要です。

一定の期限内に異議申立をすれば怖くないのですが、うっかり見過ごしてしまったりして異議を期限内に出し損ねると、非常に面倒なことになりますので、裁判所から送られてきた封筒には注意してください。