遺留分について知っておきたいこと
今回は遺留分(いりゅうぶん)について考えてみたいと思います。
遺留分とは、相続手続における制度ですが、例えば相続が発生し、遺言で長男が全て相続するとされている時に、他の兄弟は全く取り分がないのかというときに問題となるのがこの遺留分です。
日本の民法では、遺言の制度をもうけて遺産をどのように処分するかを決めさせる自由を本人(亡くなった方)に認めており、また、生前に贈与などの処分をすることも認めているわけですが、一方で、その本人も家族の支えがあってこれまでやってこられたという考え方や、家族が遺産に対して一定の期待を有するのは当然という考え方から、一定程度、家族の遺産に対する期待を保障しようということで設けられたのが遺留分の制度です。
ですので、制度の目的としては、亡くなった方(被相続人)の遺言(あるいは生前の財産処分)の自由と、残された家族(相続人)の遺産に対する期待の調整としての役割を持っています。
誰が遺留分をもっているのか
兄弟姉妹を除く法定相続人が遺留分を行使することができます。つまり、配偶者、直系卑属(子、孫、ひ孫)、直系尊属(親、祖父母 ※直系卑属がいないとき)が遺留分をもっています(民法1028条)
遺留分の割合は
遺留分は、直系尊属だけが相続人である場合は遺産の3分の1、それ以外の場合は遺産の2分の1に対して行使できます(民法1028条)
例えば、遺産が4000万円で相続人が妻と子2人というケースで、妻が全て相続するという遺言があったとします。(後妻VS先妻との間の子2人とするとイメージがつかみやすいでしょうか。)
この場合、4000万円の2分の1の2000万が遺留分の対象となり、子はそれぞれ4分の1ずつの相続分をもちますから、結局子は各自8分の1ずつの遺留分をもつということになります。
ですので、妻が全て相続するという遺言に不満があるならば、全体の8分の1、500万円について遺留分を行使するということになります。
遺留分はどうやって行使するのか
遺留分の行使は、遺留分を有する人が、その遺留分を侵害している人に対して遺留分行使の意思を伝える事によって行使できます。
実際には、遺留分の行使権が相続の開始と遺留分侵害を知った時から1年、又は、相続開始から10年経ったときに消滅してしまうことから、この期限内に行使したことを後で争われないようにするために内容証明郵便などの日付を証明できる方法によって意思表示することが通常です。
遺留分が行使されるとその遺留分を侵害している部分について贈与や遺贈の効果がなくなる(減殺)されることとなり、このような状態を請求することから、通常は遺留分の行使は、「遺留分減殺請求」と呼ばれています。
贈与や遺贈の効果がなくなるといっても、自動的に財産が遺留分をもつ人の元に来るわけではなく、遺留分の対象となる遺産の範囲や、負債の扱い、寄与分との関係等いろいろな問題があるわけですから、通常は、遺留分減殺請求をした相手と交渉し、交渉がまとまらなければ裁判手続で解決することになります。
遺留分について知っておきたいこと
このように、遺留分は遺言等によって財産を残してもらえなかった相続人の権利を守る制度です。あくまでも権利なので、行使するかどうかは本人の自由です。そのような遺言をした個人の意思を尊重して権利を行使しないとするのも、権利は権利として行使するのも本人が決める事です。
遺留分は、亡くなった人の財産処分の自由を制限する制度です。ですので、兄弟の一人に相続させて他の兄弟が全く(あるいはほとんど)相続できない場合、後妻が全て相続し、先妻の子が相続出来ない場合、個人が生前に愛人に財産を全て贈与してしまったというような場合に助けとなる制度です。
他方で、これから遺言を作ろう(あるいは死ぬ前に財産を処分しよう)という人にとっては、その自由を制限されることになります。
遺留分が法律で認められた制度である以上、これを避けることはかなり困難です。法律上は、相続の排除などの制度もありますが要件も厳しいものとなっています。
そうすると、遺言を作るにあたっては、遺留分があるということを前提に考えなくてはならないという事になります。
遺留分を行使するかどうかは、本人次第なので、遺言を残しておけばそれに従って、遺留分を行使するようなことはないだろうという楽観的な考え方もありますが、自分の死後のことなどどうなるか判らない訳ですから、自分が財産を残そうとする人が、遺留分減殺請求という紛争に巻き込まれないようにするためにも、遺留分に配慮した遺言を作成するほうが良いのではないでしょうか。